低身長
子どもにはそれぞれの個性があり、身長や発育も違います。発育のパターンもゆっくり伸びる子どももいますが、一方では早く身長が伸びてしまって、その後はあまり伸びずにいる子どももいます。このような個性豊かな子どもの発育の中で、病院で治療ができる低身長についてお話します。
子どもの身長が気になる場合は、成長曲線を描いてみましょう。このホームページにある成長曲線を印刷して、その上に成長の記録をつけてみてください。成長曲線とは男女別にたくさんの子どもの身長や体重の記録を集めて、年齢別に身長や体重の平均値や標準偏差を曲線で示した表のことです。基準範囲(標準範囲)とされる-2.0SDから +2.0SDの間に約95%の子どもが含まれ、-2.0SD以下の低身長の子どもは100人のうち2~3人くらいの割合になります。そのため、子どもの身長の伸びが基準範囲(-2.0Sから+2.0SD)を大きく外れていなければ、通常はあまり問題ありません。しかし、子どもの成長パターンが下図のAからCの場合は、早めに小児科の医師に相談することをお勧めします。また、身長が伸びすぎる場合にも思春期早発症などの病気がかくれていることがありますので、注意が必要です。
なお、成長曲線は肥満の増加などの影響を含まない2000年のデータで作成されたものを用いることになっておりますので2000年度版が最新となっています。
子どもの身長が低い原因の多くは、両親も背が低いなどの遺伝や体質によるものです。しかし、なかには成長ホルモンなどの身長を伸ばすホルモンが出ていない場合や、染色体や骨の病気によって身長が伸びない場合もあります。また、小さく生まれて、その後の身長があまり伸びない場合もあります。これらの病気はそれほど多くありませんが、中には治療可能なものがあり、その場合は早めに治療をうけることで身長が伸びます。
(1)成長ホルモンや甲状腺ホルモンの病気
(成長ホルモン分泌不全性低身長症や甲状腺機能低下症など)
出産のときの重症仮死や脳腫瘍などによって下垂体が障害を受けると、下垂体からの成長ホルモンが分泌されなくなり、その後の身長の伸びが悪くなって徐々に低身長がめだってきます。軽度の成長ホルモン分泌不全の場合には、はっきりした原因がなくても身長の伸びが低下することがあります。また、甲状腺ホルモンの分泌が不足したときにも身長の伸びが低下するなることがあります。これらの病気では、不足している成長ホルモンや甲状腺ホルモンなどを治療で補うことにより身長が伸びます。
(2)染色体の病気(ターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群、ヌーナン症候群など)
ターナー症候群は女の子の二千人に一人くらいの割合でみられ、2本あるX染色体が一本しかなかったり、一部が欠けていたりします。均整のとれた低身長ですが、卵巣の発育に問題があることが多く、思春期が見られない場合があります。また心臓病や難聴などの合併症を持っている方もいます。ターナー症候群では、低身長の場合には成長ホルモン治療、卵巣の発育に問題がある場合には女性ホルモン治療を行います。
プラダー・ウィリー症候群は15番染色体の変化による病気で、一万人に一人くらいの割合でみられます。低身長や性腺の発育の問題だけでなく、乳幼児期には筋緊張の低下がみられ、肥満や発達障害などの症状もあります。成長ホルモン治療により、身長を伸ばすだけでなく筋力や体の代謝も改善します。
ヌーナン症候群は日本では一万人に一人くらいの割合でみられ、低身長、思春期遅発、心疾患、特徴的な外観を特徴とする疾患で特定の遺伝子の変化が原因となります。低身長に対して成長ホルモン治療を行います。
(3)子宮内発育不全(SGA性低身長症)
妊娠満期で生まれても身長や体重の小さい子どもや、早産で妊娠週数に比べて小さく生まれた子どもは子宮内発育不全と呼ばれます。子宮内発育不全で生まれた子どもの身長は多くの場合で3歳までに追いつきますが、3歳になっても低身長の程度が強く、一定の条件を満たす場合には成長ホルモン治療を行うことがあります。
(4)骨や軟骨の病気(軟骨無形成症・軟骨低形成症)
骨や軟骨そのものの異常のために身長が伸びず、胴体にくらべて手足が短いなど、体のバランスに特徴がみられます。この病気は遺伝しますが、突然変異(ご家族に同じ病気がない)で、子どもだけに病気が見られることがよくあります。 身長を伸ばすために成長ホルモン治療や、あるいは整形外科で骨延長術を行うことがあります。軟骨無形成症では軟骨の成長を促進する治療を行うこともあります。
(5)心臓・肝臓・腎臓などの臓器の異常
心臓、肝臓、消化器などの重要な臓器に病気があると体に十分な栄養を取り込むことができず、身長の伸びが低下します。また、低身長の検査でかくれていた臓器の病気がみつかることもあります。その場合は、原因となっている病気の治療を行います。治療によって原因となっている病気がよくなれば、身長も伸びてきます。 小児慢性腎不全でも低身長となりますが、腎機能や身長が規定の値を下回る場合は成長ホルモン治療を行います。
(6)その他の要因
身長の伸びに関わる要因は、遺伝や体質、各種のホルモン、慢性的な治療を必要とする疾患や薬剤に伴うものなどの他にも栄養や睡眠、運動、心理状態(愛情やストレス)などの環境要因があります。また、身長はよく伸びる時期とそうでない時期があり、男の子では声変り、女の子では月経が始まるとその後の身長の伸びはわずかになります。子どもの低身長が心配な場合は、早めのご相談をお勧めします。